猫目線の国民的アニメと童謡

考察

俺はさすらいの猫、気の向くままに町から町へと渡り歩いてきた真っ白な猫。
ある時は漁港で打ち上げられた魚を食し、またある時は自分が猫だと信じてやまない娘にネズミの取り方をレクチャーしたりして、毎日自由に生きてきた。

だがこの極楽のような楽しい生活もある日一変してしまう。
とあるみかん農家にたどり着いた時に、巨大みかんの中が思いの外居心地が良いことを発見してからは基本みかんの中で生活していたのだが、たまには運動しないと、とみかんの上部を持ち上げて腰を回してストレッチをしていたところを、偶然ある坊主の少年に見つかってしまったのが運の尽き。

迂闊なことに首根っこをあっという間に掴まれた俺は身動きが取れなくなり、坊主に巨大な鈴を首につけられ囚われの身、いわゆる飼い猫と成り下がってしまったのだ。

隙を見て逃げ出すつもりだったのだがこの坊主の家には七人もメンバーがいて、計28個もの眼球と耳で俺のことを四六時中監視しているもんだからなかなかタイミングが難しい。
たまに”はーいはーい”しか言わない茶髪のちっこいのまでもが現れ、家中を這いずり回ってパトロールするもんだから本当に気が抜けないどころか神経すり減って毛が抜ける。

そこで俺は考えた。
ここは力技ではなく頭脳戦で攻めるべきだと。
監視の眼をかいくぐって逃げ出すのではなく、この愚かな人間たちに俺が逃げるなんてあり得ないと信じ込ませた上でこの首につけられた忌々しい巨大鈴を外させ、堂々と玄関から旅立とう、と。

俺はこの時から人間を自分の思いのままにコントロールすべく、人間とはなんぞやについて書かれた本を読み漁った。
閉店後の本屋に忍び込んだり、レクチャーして以来親交があった猫娘の利用者カードを借りて図書館で本を借りたり。
近所の猫仲間を集めてそれぞれの飼い主の生態のリサーチもした。
情報をくれたネコ友にはもれなく、みかんを真っ二つに割って中身を上手に取り出すコツを教えてあげたさ。
おかげで程なくして近所には、みかん上部を中から持ち上げて腰を振る猫が大量出没するようになって、いつからかこの町には『みかんから出てきた猫のヘソを触ると幸せになれる』という伝説が生まれた。
噂を聞きつけた日本中の人がみかん猫を探しにこの町に集まったっていうんだから、観光業にもたらした功績を称えてまたたび1年分くらい贈呈されてもいいくらいだと思うんだけどね。

何はともあれこうした努力の結果、以下の三点を重点的に意識すると人間なんて軽くコントロールできると言う結論に達した。

①自尊心を傷つけられることを嫌う人間には、必要以上にへり下って接すると良い。
②弱っているところに温もりを与えてやると人間はなびきやすい。
③逆ギレするだけなので決して怒りをあらわにしてはいけない。

先日坊主に踏まれるというちょっとした事件があったのだが、これは俺の今までの考察が正しいことを証明するいい一例になった。
経緯はこうだ。

前日も本を夜明け近くまで読み漁っていた俺は、縁側でついついうたた寝をしてしまっていた。
そこにガラガラっと玄関の引き戸を開けて「ただいま〜」と帰ってきた坊主。
するとまた何か悪さでもしたのだろうか、クリームパン3つくっつけたような頭をした女の人がホウキを持って、待っていましたと言わんばかりに坊主を「コラー!!」と家中追いかけ回し出した。

ここまではいつもの話というか、同じことを毎日繰り返して人間というものはつくづく学ぶってことをしないもんだと感心するくらいで、あえて避難することはせず二人の様子を♪ルールルルルッルー今日もいい天気ー♪なんて口ずさみながら眺めていたのだが、次の瞬間、廊下のカーブを曲がりきれなかった坊主がこちらへバランスを崩しながら倒れ込んできたのだ。

ムッギュ!
「あ、猫ふんじゃった!」

あまりの咄嗟の出来事にこれまでの積み重ねを忘れ、俺は身を守るために長年隠し続けてきた天下の宝刀である爪を出してしまった。
”踏んじゃったじゃねえ、踏んでしまいました申し訳ありませんだろうが!”
シュッという音と共に空を裂く研ぎ澄まされた爪
響き渡る坊主の悲鳴

「ひっかかれたー!お前猫のくせに悪い奴だな!」
「爪きれよ!ひげも剃り落とせよ!」


パニックからか荒唐無稽なことを口走る坊主の目に、恐怖と後悔の色が広がるのを見た俺は瞬時に冷静さを取り戻した。

しまった。
俺としたことが我を忘れてしまうとは。
でも今ならまだ間に合う、今こそ俺の学びの成果を発揮する時だ。


まず、背中の逆立った毛を納めて人間のいかにも好きそうな甘い声でニャーゴニャーゴ鳴きながら、上目遣いで坊主の足元に近寄って行く。
これでスネあたりに俺の柔らかい毛をスリスリできたらもうこちらのもんだ。
坊主が跪いたところを狙って膝の上にのり、留めに奴の口元付近に俺の顔を擦り付けてニャン♪とか言ってやれば奴は骨抜き間違いなし。

「・・・ごめんよ踏んじゃって」
「お詫びに鰹節あげるからおいで」

俺の考察が間違えていなかったと証明できた瞬間だった。
日々の研究とリサーチの努力が報われ、謝罪だけでなく鰹節まで持って来させるまで人間を操れるように俺はなったのだ・・・!
猫仲間に台所の魚をくわえて逃走させ、ねえさんと呼ばれる女の人を裸足で家から追い出している間に、俺の首の周りにくくりつけられた巨大な鈴を坊主に外させるという計画を実行する日がいよいよ近づいてきたようだ。

みんなが笑ってお日さまも笑ってる世界を、俺は自由に生きるんだ!


考察
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