【小説】つまらない日常に刺激が欲しい人へ

行動

 

できることなら常に美しいものを全身に感じて刺激を受けていたい。

優れた芸術作品を鑑賞し、目を閉じれば幻想の世界へ引き入れてくれるような音楽を耳にしながら、私を恍惚とさせてくれる食べ物を口にする毎日を送りたい。

そうする事によって揺さぶられる感情が、私自信を美しくさせてくれると思うから。

 

しかし現実の世界はそうもいかず、毎日美術館に足を運ぶ時間もなければ高級レストランで三食食事をする余裕もない。

 

耳ざわりがいいとはとても言えないような雑多な物音が意に介さず耳に流れ込み、経済的にも現実に目を向けざるを得ない毎日を送ることを余儀なくされ “今日の料理は美味しく出来てるね” なんて大切な人に喜んでもらえる一言にささやかな喜びを覚える生活。

 

いや、それはそれで構わないのだ。

願望は所詮願望にすぎず、実際にそれが叶ってしまったら逆にそれまでのありふれた日常が恋しくなるのはわかっている。

程遠い現実を送る中で、その願望へ近づくための工夫を見出すことも嫌いではないし。

 

洗濯物を外に干すか室内に干すか判断するために、その日の天気を調べることから私の一日は始まる。

そして、冷蔵庫の中の昨晩の余り物をレンジでチンしてエネルギー補給した後、掃除。

お腹が落ち着いたらエコバッグを持って近所のスーパーに買い物に行き、その日の特売の品を見極めながら夕飯の献立を決める。

最近はどうせマスクで隠れてしまうから、とメイクもろくにせず家から出られるようになってしまった。

 

その後はくだらないとは思いつつも芸能人のゴシップがちょっと気になってしまうという野次馬精神が捨てきれずテレビのワイドショーを横目で見ながら、ファッション雑誌や旅行雑誌を見て

”良いなー”

”ステキだなー”

”こんなところで生活してみたいなー”

と雑誌の中のキラキラした人と自分を重ね合わせて現実逃避して過ごす。

 

あっという間に夕飯の支度をしなくてはいけない時間はやってきて、午前中に買ってきた特売品でササっと作るのだがこれまた雑誌で見るような代物ではない。

全体的に茶色っぽいうえに盛り付けも “どうせすぐ食べちゃうんだし” と蔑ろにしがちだ。

よく目にするカリスマ主婦の方々は本当に毎日あんな整った食事を用意できているのだろうか。

 

こんな私の生活だが、やはり一日一度は必ず自分を成長させるために費やす時間をとるようにしている。

それは、夜寝る前の読書の時間。

ベッドに入った私は、まず電気を完全に消して部屋を真っ暗にする。

暗闇の中でしばらくジーっと目を開けていると “死んだ後に見る景色ってこんなのかしら” と少し頭がバグってくる。

こうしてまず、過ごした平々凡々な一日から自分をリセットするのだ。

そうして徐にスマホを取り出し、小説を読み出すのだ。

 

暗闇の中にぼうっと浮かび上がる光とその中に浮き上がる文字。

まるで贅沢にも映画館を独り占めしているかのような錯覚に襲われる。

 

そこから紡ぎ出される様々なストーリーに没頭する事によって、私はまるで自分が本当にその小説の中に存在しているような不思議な感覚を楽しみ、味わうのだ。

 

昨晩読んだ 流浪の月 [ 凪良 ゆう ] はストーリーもさることながら文章全てが美しく

ーねえ文、わたしのこと覚えている?

目の前には池があり、水面が午後の光を反射して光っている。人の気配。笑い声。風が吹いて、頭上で葉がこすれる音。音はあふれているのに静かだった。

この一節など、真っ暗な寝室にいるはずなのに本当に風の匂いが感じられるような気すらしてきた。

主人公のように自分の人生を左右させるほどの忘れられない人がいるわけではない私だが、久しぶりにその人を目にしたときの胸の切なさや、声をかけられない葛藤、一度は愛していると思い込んだ人の裏の顔を知ってしまった時のショックなど、まるで自分のことのように共感できる。

主人公の純粋な他人を思う心に反省させられ、下世話な男女の関わりを越えた結びつきを見せつけられ感嘆し、単に読んでいるだけのはずの私も一緒に彼らの人生を追随している錯覚を起こす。

 

今やスマホやタブレットのクリック一つでいつでも購入出きて、その場ですぐに読み始めることができる小説は素晴らしい。

当たり前だけど自分の人生しか経験できない人間に、いとも簡単に他人の感情や体験を味わわせてくれるのだから。

自分が実際に美しいものを目にしたり口にしたりできなくても、そういった内容の小説を読めば良い。

少なくともそうすることで私の欲求はある程度満たされ、明日また繰り返される平凡な一日を乗り越える活力を与えてくれる。

 

※個人的な感想です。この小説は題材が少女誘拐とかロリコンとかだったりするのでレビューを読むと賛否あるようですね。

行動
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